今回はこちら。
小川洋子さんの作品は半年ほど前に読んだ『猫を抱いて象と泳ぐ』が初めてだったのですが、その作品がすごく好みだったので他の作品も読んでみたいなということで、王道の『博士の愛した数式』を選びました。
これは読んでおかないとかな、と。
この作品、帯に「270万人が泣いた」って書いてあるんですよ。
こうゆうこと書かれてると、
「本当に泣かせてくれるのかな?」とか、
「泣けなかったら自分って心冷たい人間なんじゃないか」とか、
若干余計なこと考えながら読んでしまうタイプでして、今回もそんな感じで読んでいました。
このお話は設定が少し特殊で、
40代くらいのときの交通事故がきっかけで、それ以降の記憶は80分でリセットされてしまうという後遺症を抱えている博士がメインキャラクターです。
その博士に仕えることになった家政婦さんと博士の友情の物語なのですが、話の展開がどう感動に行くのか予想がつかなくて、そこが面白くもありながら、期待しながら読んでいました。
以前、あるニュース番組で実際にこれと同じような症状で、80分どころかほんの数秒しか記憶が持たないという方が紹介されていました。
なのでそうゆうご病気があるのだということは知っていました。
しかし、私はその番組を見たときに、
その方が必死にメモを取りながら目の前にいる人の話を笑顔で聞いている姿に
「素敵だな」とか「すごいな」とか、
そんなふうに思った記憶があります。
振り返ると、この他人事のような感想しか抱けない自分の浅はかさは情けなく感じます。
そこにどれだけの苦悩があるのか。
そこまで想像できなかったことを、
この物語を通して教えてもらいました。
人とコミュニケーションが取れないとか、
買い物ができないとか、
そうゆうのは表面的なことで、
本当に苦しいのは、
これから出会う人のことを覚えることはできない。
なのではないかなと思いました。
苦しいかどうかは私が勝手に決めることはできないし、物語の中でも博士は息を吐くようにメモで必要な情報を繋ぎとめているので、苦しいとかそんなことを考えるそぶりはみせません。
でもそんな「リセットされてしまう人間関係」の中に見えた一縷の光。
その光は、その人の「心」が光源であって、それはどんなハンデを負った人にも平等にあるものである。
どんな境遇でも、人のために何かをしたいと思う心にすごくグッとくるし、そうゆう心は忘れずに持ち続けられる人でありたいと思わせてくれる物語でした。
正直私はこの作品を読み進めていくうちに、
「これは私には泣けないんじゃないか」
と薄々感じていました。
ラストの20ページくらいに差し掛かった時にはほとんど諦めていました。
でもちゃんと泣かせてもらいました。
正直言えば通勤中と会社での昼休み中に読んでいたので涙はこらえましたけど、
でもラストの章でブワーーって、すごく心が動きましたー。
リトルアリョーヒンがマスターのおなかに顔をうずめたときと同じように。
小川洋子さんの表現は、自分の内側から人の温かさを感じられるような、不思議な感覚があります。
言葉で人の感情を動かすって、やっぱりすごい技術ですよね。
私がこの作品のあらすじを書いてもあなたの心を動かすことはできない。
でも小川洋子さんの言葉でこの物語を見れば、きっと、心が動くと思う。
そんな素敵な作品でした。